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2004/06/13

『電車男』考IV-フェアな視線-

 『電車男』を始め本サイトさんに掲載されている毒男ストーリーのスレッドを読んで、2ちゃんねるにも雰囲気の良いところがあるんだ、という人が結構いるようです。そーいう印象を受けるということは、世間一般での2ちゃんねるの印象がどれだけ殺伐としているか、ということでもあろうかと。このことを考えるとき、自分と違うカルチャーを持っている相手に対して、公正にものを見ることってなんて難しいんだろうかと、僕はいつも感じるのです。
(純粋に物語に興味をお持ちの方は、以下を読まずにまっすぐ『電車男』の本サイトさんまで飛んでください。そして出来れば、いや必ず、『電車男』だけではなくて他の物語もじっくり読んでほしいと思います)

 僕自身は、2ちゃんねるに書き込みをしたことがありませんし、ましてスレッドを立てるなんておっかないなぁ…と思ってました。過去スレを読んだり、ROMしたりは以前より増えたけれども、正直、今でも少し剣呑な(不安に思う)ところもあります。

 ただ、2ちゃねらーの人々自身が言うほど「『電車男』のノリはめったにない、例外の存在」とは思いません。今でもあるかどうかは分かりませんが、以前たまたま見かけた「山田風太郎スレッド」はコミック『バジリスク』をとっかかりに、『忍法帖』シリーズ初心者にヴェテランさんが話のつぼを解説したり、コアな人々が絶版本情報を交換したり、という間口の広さと雰囲気の良さがとても印象的でした。また「ウェディングカメラマンスレッド」は、主に式場での非常識な客へのグチが思わず笑っちゃう口調で語られて秀逸だったと思います。

 しかし実際のところ、アットホームな雰囲気だったりまったりした様子のスレッドよりも、世間一般のイメージ通りのすさんだスレの方が目に付きやすいかも知れません。論争が揚げ足取りになって荒野と成り果てるケースは数知れず。荒らす人々は、その殺伐さに病み付きになって平地に嵐を引き起こすようです(僕には全く理解できませんが)。また、ある特定個人をぼろかすに叩くためにスレッドを立てた人もいましたが、他の参加者達にぼろかすに叩かれてました(自分のスレッドなのにネ。お気の毒なこって)。

 2ちゃんねるにも明文化されたルールがあり、書かれざる慣習(ノリや雰囲気とも言えるかも)があるのは、他の生活集団と何も変わらないのです。でも2ちゃねらーの人々が一般人(というか素人衆)に対して警戒する以上に、普通の方々が2ちゃんねるについて良い印象を持たれていないのを、その悪評からすれば当然のことだ、とは僕には思えない。

 肉体労働の現場では口汚い言葉や下世話な話、体育会系のノリが標準仕様ですが、だからと言って肉体労働者全てが粗野で下品だということは決してありません。大阪人はボケ突っ込みが標準仕様ですが、だからと言って皆能弁でお祭り好きなわけでは決してありません。しかし、外部の人々が彼らをどう見ているか、そして押しつけられたイメージに当の本人達がどう感じているか、ということだってあるわけです。

 表面的なことに原因を求めるのはとても簡単ですし分かりやすい。それに目に見えない部分を掘り下げていくのは、調査できなければ想像で補うしかありません。しかし、だからと言って目に見えるものを思い込みや一部の情報だけで独断してしまえば、流行っているという理由だけでファッションや音楽を消費する人々と何が違うのでしょう?

 男性と女性とゲイ、文科系と理科系と体育会系、ジャンル違いのヲタカルチャー等、異文化コミュニケーションの状況はどんどん複雑な様相を呈しています。自分の理解と異なるカルチャーを背負った相手に対して、「キモイ」「ウザイ」と拒絶ばかりしたり「自分が正義」と自己主張ばかりすれば(この2つの行動の根っこは同じだと思う)、いずれ相手を潰すまでの闘争状態が発生してもおかしくありません。

 闘争を全てなくして平和にすることはおそらく不可能だけれど、それを回避する方法がないわけではない。そのひとつが、「電車男」さんの一言、
「とにかくおまいら外に出てみろ 」
という言葉に象徴されていると思うのです。自分の考えなどは別に持っていてかまわないけれど、それ以外の存在があるんだっていう前提で外界に接すること。そのときに傷つけられ、かたくなになってしまうことだってあるけれど、それでも出来うる限りネガティヴにならず、素直に自他を見つめること。その上で「あなたはこうなのだね、自分はこうなのだよ」と相互に認め合うこと。

「殴られて感情的になってしまえば、偏見になってしまう。それではいけないのです。常にフェアでなければ、悪いことを悪い、良いことを良いと報告できないからね」
写真家ユージン・スミスの言葉です。
(この項終わり)

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